さて今回はChandler LimitedのGERMANIUM seriesの3機種、
*GERMANIUM Pre amp,
*GERMANIUM Tone Control,
*GERMANIUM Compressor
です。共通していることは回路にゲルマニウムトランジスターを使用していることです。GERMANIUMシリーズといわれる所以です。
3機種をまとめて試聴する機会を得たのでそのときの様子を中心にレポートしていきます。
まず、パネル説明からいきましょう。
*GERMANIUM Pre amp
名前の通りHAです。今回は試せなかったのですが、DIも搭載しています。HAとしての基本機能、すなわちGAIN(GERMANIUM Drive),PAD,+48V,Phaseに加え、「THICK]という音に厚みを加えるボタンとシリーズの名前の由来ともいえる[FEEDBACK]のノブがあります。
GERMANIUMシリーズは基本的にこのGAIN(GERMANIUM Drive)とFEEDBACKの組み合わせで音質が異なります。Driveとありますが、派手なディストーションになるわけではありません。そもそもDriveの基本的な意味は「駆動させる」といった意味ですから歪がもろに出てくるわけではありません。
GAIN(GERMANIUM Drive)は比較的クリーンに音量をあげてくれます。HAだと若干音質の変化もある気がしますが、後述のEQとCompでは確かに音量だけが上がっている感じです。それに対してFEEDBACKをあげると音量も上がりますが、音質も変化します。低域が太くなったような感じでしょうかこの2つのつまみで大まかな音質傾向を決めることが可能です。
なので「音質」関するコメントが非常にしづらい機材のひとつですね(苦笑)。あえて言うのであれば、粘りのある中域が健在な印象が終始ありました。「粘りのある中域」と言うとAmekのChannel in a BOX,Drawmerの1960などものレビューでもそういったことを書きましたが、それらとは別のキャラクタです。ずしっとしっかりした、密度の高い音が出てきます。高級機材の音ですね。
Feedbackを控えめにするとクリーンなHAとして使用可能です。Feedbackをあげていくと、音量も上がり、スッキリしたクリーンな印象から、ちょっと泥臭いというか、「中域の癖」みたいなものが出てきます。コレは後述のGERMANIUM Tone Control,GERMANIUM Compressorも同様です。
*GERMANIUM Tone Control,
3バンドのEQと言ってよいでしょう。Passive EQとActive EQを組み合わせた珍しいタイプのEQです。左からGERMANIUM DriveとFEEDBACKがあり、[THICK]と書かれたいわゆる低域、[PRESENCE]と書かれた中域、そして[TREBLE]と書かれた高域となります。
PRESENCEとTREBLEはQが固定で、周波数がセレクト式、Gainはcut/boost式です。PRESENCEがPeaking,TREBLEはPeaking/Shelving切替です。
特徴的なのはTHICKだといってよいでしょう。
CUTのみのバンドとBOOSTのみのバンドが用意されており、BOOSTの方はPeaking/Shelving切替可能です。これらの関係を独立にカット/ブーストを行うのか、関連付けるのかを切り替える[INTERACTIVE]⇔[INDEPENDENT]の切替が可能です。
周波数はセレクト式でinteractiveとindependentを切り替えると音は変わります。どちらがよいというのは楽器や、その曲調によって変えるべきだと思いますが、個人的には、Independentがつかいやすかったです。おそらく、Independentで音を作ってIneractiveも聞いてみる、みたいな感じが多いのでは?
Baypass回路も用意されていますので、原音との比較が簡単です。
PASSIVEとACTIVEとありますが、THICKがPASSIVE,PRESENCEとTREBLEがACTIVEになります。
回路全体をバイパスするわけではないので、GERMANIUM DriveとFEEDBACKは有効なままです。
*GERMANIUM Compressor
左から見ていきましょう。
まずCompのバイパススイッチ,コンプのタイプ(?)の切替、あとは[INPUT],[SIDECHAIN],[RATIO],[COMP CURVE],[MIX],[ATTACK],[RELEASE],[GERMANIUM DRIVE],[FEEDBACK]です。特に説明が必要な機能はないように感じますが、念のため簡単に記載しておこうと思います。
[INPUT]:GERMANIUM CompressorはThresholdが固定されているタイプのコンプで、1176などと同じく、Inputをあげて、音を設定されているThresholdにあてにいく、というコンプです。そのための入力gainです。
[SIDECHAIN]:コレはコンプレッションの検知回路に送る信号にfilterをかけることが出来るというものです。HPFのみですが、KickやBassに非常に効果的です。
[RATIO]:コレは説明不要でしょう。Ratioですね。
[COMP CURVE]:コレはKnee Curveのようなものだと思ってもらってよいと思います。左がSoft knee,右に行くにつれHardになります。
[MIX]:GERMANIUM Compressorのもうひとつの大きな特徴でしょう。原音とコンプサウンドを混ぜることが出来るのでです。
[ATTACK],[RELEASE],[GERMANIUM DRIVE],[FEEDBACK]
これらは、おなじみですね。割愛します。
さて実際に音を通してみてのcheckです。素材は録音したKick,Bass,Snです。Pro ToolsからAUXで送り、GERMANIUM Tone Control,GERMANIUM Compressor,GERMANIUM Pre ampを通り、再度Pro Tools上に立ち上げて切替ながら試聴しました。
まずはEQからです。
問題のないGain設定(Unity gain)にして、回路をオンにして、つまみを回していきます。非常に良く効くEQ回路です。
少し回しただけでもしっかりと音の変化を感じ取ることが出来る強力なEQですね。ソフトにしっかりというよりは、タフな感じで効いていてくれます。やたらめったら乱暴に効く、という感じではありません。音楽的に、非常にすんなり効いてくれます。
EQの場合ブーストを行っていくと、どこか(本体のみではなくインターファイスやADコンバータなど)でクリップしてしまいますが、その場合にはパネルの左側にあるGERMANIUM DriveとFEEDBACKをコントロールする必要があります。
おそらくFeedbackを固定してGainを下げるのが、一番イメージを保ったままクリップを回避できる方法でしょう。
すべての楽器に共通していえるのが、音にコシが出て、存在感が増す、といった感じでしょうか。センターラインの楽器には非常に有効です。
[INTERACTIVE]⇔[INDEPENDENT]も非常にユニークで、始めはIndependentで音を作っていたのですが、Interactiveにすると、一癖つく、といった感じでしょうか。積極的に使っていける機能だと思います。
カットでちまちま使うよりは、豪快にブーストしていきたくなるEQですし、そう使った方が面白いと思います。
さて次はコンプです。
EQで派手な音を作っていたせいか始めに通したときはなんとなくおとなしい印象をうけました(すぐに覆されるのですが)。
やはり、Unity gain settingを作り、そこから-6dBにしてからInputをあげていきます。
GRメータが触れ始めます。1.5dBくらいしか触れていないのに結構コンプ感が出て好印象です。結構つぶしても音が痩せないのは流石ですね。ビンテージな感じがしますね。
COMP CURVEも結構はっきり違いがわかるので音作りに一役買ってくれます。KickでSidechain filterを有効にしていくと低域のダンピング感が変わってきます。ここでも音作りが可能ですね。さらにCLEAN COMPとDIRTY COMPでも音は変わります。高次倍音を切り替えているのですが、THD(Total Harmonic Distortion)がCLEAN Compでは0.2-0.5%なのに対して、DIRTYCompの時には2%-5%になります。なので音の変化は結構わかりやすいです。
Mixつまみでも音は変化しますから至れりつくせりですね。ノーマルなコンプとして使いたいときは左に回しきることになると思いますが、せっかくこの機能があるのですから、思いっきりつぶした音と、Dryを混ぜるというのもかなり面白いと思います。Snなど素敵なことになります。
前述の通り、GAIN(GERMANIUM Drive)とFEEDBACKの設定次第で、音量/音質が大きく異なります。取扱説明書にもUNITY GAIN SETTINGとありますが、メーターの触れ方は同じだが音質はかなり異なります。
是非皆さんお気に入りのUNITY GAIN SETTINGを見つけてください。
ここまで来ると単体ではなく、2台を繋げて試してみたくなります。時間の関係もあり、COMP→EQの順番しか試せなかったのですが、いやー、いいっす。とてもよいっす。
コンプで思いっきりつぶして、Mixでバランスをとって、EQでBoostして....。かなり幅広い音が作れると思います。
KickやSnには顕著で、切り替えると、元の音が貧弱にすら聞こえてきます。Germaniumの回路も2個通っていることになりますし、もはや独壇場でしょう。Annex RecordingのSSL Xlogic Channelで同じような設定にしてみたのですが出てくる音は結構違います(当たりまえですが)。
ある意味SSLにはない、中低域の太さがあります。
このあたりがビンテージな質感と呼ばれている理由なのかもしれません。
総じて緻密に音を作っていくのであれば、SSLやAmek,Focusriteの方が痒いところに手が届くと思います。ただGERMANIUMシリーズにしかない強力な、音楽的個性があるのもまた事実です。かなりターゲットが絞れていないといきなりHAを通すのは怖い気もしますが(とはいってもクリーンな音もしっかり収録できます)、僕はMixでEQ+Compでいろいろインサートしていく方が面白いと思いました。
実際のところ欲しいです。
録音/Mixの現場で必ず必要になるような機材ではないのかもしれませんが、一癖欲しいときにはかなり強力な秘密兵器になること間違い無しです!
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