今回のProduct Reviewはあのapiの社長兼エンジニアを勤め、主要な作品のほとんどを手がけたPaul Wolf氏がオリジナルのオペアンプを開発し、新たに立ち上げたブランド、TONELUXの製品です。S&Rでレビューされていましたのでちょっと聞いたことがある、という方もいらっしゃるでしょう。
TONELUXの製品は基本モジュールとなっており、自在に組み合わせることが可能です。
「必要な機材を必要な部分に必要なだけ」という感じでしょうか。
「EQやAUXが必要ないのになぁ...でもレベルコントロールがあるからFaderはいるんだよな」という方もいらっしゃると思います。
そんな方々に朗報ではないでしょうか?
今回試すことが出来たのはHAのMP1a,CompressorのTXC,EQのEQ4Pです。ランチボックスも用意されているので、apiのようなモジュールベースでお気に入りの機材を持ち歩くということも可能でしょう。では基本機能から見ていきましょう。
MP1a:前述の通りHAです。Frontにもinputを搭載しています。Neutrikのコンボコネクターが採用されています。HAとしての基本機能(PAD,Phase,+48V)は当たり前に備わっています。またTILTと言う機能が搭載されており、650Hzを中心に右(=高域)上がり左下がりや右下がり左上がりのカーブを調節できます。
またGainのつまみに加えてfaderつまみも搭載していますから歪ませた音を+4dBuで出力したい、接続先の機材に合わせてレベルをコントロールしたい、というときに活躍します。音質傾向としては優しく温かみのある感じです。
TXC:Compressorです。Threshold(-20~+20),Ratio(1.5:1~20:1,10:-2~10:-8),Attack(0.05~30msec,×5も可),Release(0.02~3sec)が可変です。コンプの基本はきっちり押さえています。
コレのほかに[TYPE],[LINK],[RMS DET Filter],[MIX]という普通のコンプレッサーには搭載されていないつまみがあります。
順に見ていきましょう。[MIX]を除いてはapi2500にも搭載されている機能です。ただ2500の場合には選択式だったのですが、TXCはスイープでブレンドも可能です。
まず[TYPE]ですが、60年代のフィードバックタイプのコンプレッションと90年代のフィードフォーワードのコンプレッションを選択/ブレンドが可能です。[LINK]コレはまんま2500に搭載されていました。基本的にLinkしたときにしか有効にならないのですが、100%で純粋なステレオコンプレッサー,50%で中途半端な(?)ステレオコンプレッサーになります。50%にしておけばLchに突発的なピークが入ってきてもRchはあまりコンプレッションされません。その代わりセンターがずれることになります。SnareのtopとBottomのような完全に独立ではないけど、関連付けてコンプレッションをかけたいとき等に重宝するでしょう。[RMS DET Filter]ですが、コレはコンプレッサーの回路に送る信号に対して、フィルター調節が可能ですSide-Chainに対しても有効ですので、特にこちらに対して使用することが多いでしょう。[MIX]は最近のコンプに搭載されて来ている新しい機能ですね。左に回しきるとバイパス、右に回しきるとコンプサウンドになります。思いっきりつぶして、アタックを強調し音に原音を混ぜるといったことは昔から行われてきましたが、chが2つ必要でした。
このつまみがあればこれ一台で可能です。
Make-upはAutoなのでレベルの調整もラクチンです。
EQ4P:4band セミパラメトリックEQです。Gainはすべて±15dBで周波数は高域:500Hz-21kHz,中高域:500Hz21kHz,中低域:50Hz-3kHz,低域:15Hz-1kHzとなっています。この手の4バンドEQで多いのがHi/Loはshelving/Peaking,Midレンジ2つはPeakingというタイプですが、EQ4PはPeaking/Shelvingは高域のみであとはすべてPeakingです。僕は結構低域をPeakingで使用することが多いので特に不便を感じません。またQが選択式にせよ可変なものが多い中、EQ4PはQha固定でプロポーショナルQかコンスタントQをセレクトするようになっています。ほとんどのEQはプロポーショナルQです。SSLのEシリーズEQは確かコンスタントQでしたね。基本的にプロポーショナルQになっており、ボタンを押すとコンスタントQになります。ただ、Gainを固定してこれらを切り替えてもQが変化したような変化に近いので、実際のところQ幅の切替だと思ってもそんなに差し支えはないと思います。
ただ正確にはQのつまみを回す変化ではなく、SSLのGシリーズEQはEシリーズEQかを切り替えた変化ようなになります。
さて基本機能がちょっと長くなってしまいましたが、実際の音に移りましょう。Mix/Recで試すことが出来たのでそのときの印象を中心にレポートします。まずmixで中心に使ったのはTXCとEQ4Pでした。TXCから見ていきますが、まずはBassです。GRがちょっと光る程度ではあまり音の変化は感じられません。思いっきりつぶしていくとブリブリ系のベースの音を作る事が出来ます。同じ設定で前述の[TYPE]を回しただけでも音が変わりますので幅広い音作りが可能です。Kickを通してもその印象は変わらず、自然な感じの音から、バキバキのコンプサウンドまで幅広く作ることが出来ます。
EQ4Pですが、こちらもも自然な音質ながらかなりきっちり効きます。音の効果は異なりますが、SSLやAmekのEQと同じくちょっとつまみを回しただけなのに、音の変化をきっちり感じ取ることが出来ます。自然で、温かみがある感じです。apiと同じ効果を想像していたのですが、こちらの方が優しくて、上品です。高域を思いっきりブーストしても耳に痛くない感じです。なかなか聴いたことのない感じのサウンドです。定価が¥178,500ですからきっちり高級機材の仲間に入る機材だと思いますがSSLともAmekともNEVEともapiとも異なっています。強いて言えばapiとamekの中間のようなサウンドでしょうか。非常に守備範囲の広い製品でしょう。
RecではMP1aとEQ4Pを試しました。1つ目のソースはSaxだったのですが、ここでも優しい感じの音は健在です。高域までスムーズに出ているから優しく滑らかな印象を受けるのかもしれません。
もうひとつのソースはギターです。クランチやギターなど耳の痛い周波数が出がちなソースをきれいにまとめてくれます。
別のタイミングで徳次郎とISA430 kIIと比べながら試聴したのですが、彼が「基本的にGentleだねぇ」といっていたのが印象的でした。
音質にはまったく感心で、高級機材の音です(まぁ高価なのですが)。欲しいくらいです。ただ操作性の観点から改善して欲しいポイントがありました。スペースの観点からか2連ノブになっているのは仕方ないと思いますが、表示が統一されていないために操作するときに一旦表示を確認しないといけない、という点です。
製品写真の拡大図を見ていただければお分かりいただけるのですが、TXCでは内側のつまみの機能が黒色で、外側のつまみの機能が赤色で記載されていますが、EQ4Pでは逆になっています。
正直わかりづらいです。パネルの問題だけなので簡単に修正できるのではないかと思います。
あとは改善点と言うかリクエストなのですが、EQ4Pで内側のノブがGainになると個人的には使いやすいのですが...
コレは周波数を良くいじるのか、Gainを良くいじるのか、その辺の問題もあると思います。
YAMAHAのPM consoleなども使い慣れているせいか、僕は2連ノブのEQは内側がGainという頭がありました。apiは逆ですからその名残かもしれません。まあ慣れといえば慣れでしょう。
いずれにせよ、次世代の録音に向けた製品であることは間違いないでしょう。
目的にあわせてミキサーを「選ぶ」のではなく「組み立てる」というのが可能になりました。
冒頭の繰り返しになりますが、「必要な機材を必要な部分に必要なだけ」ですね。
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